「特定空家に指定された」「市役所から命令の通知が届いた」——このまま放置すると、最終的には行政が空き家を強制的に取り壊す「行政代執行」に至ることがあります。行政代執行は所有者にとって金銭的な負担が非常に大きい制度です。この記事では、空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)にもとづく行政代執行の仕組みと、実際に強制解体に至るまでの流れ、費用負担のルール、そして行政代執行を避けるための方法を一次情報にもとづいて解説します。

行政代執行とは何か

行政代執行とは、空き家の所有者が法律にもとづく命令に従わない場合に、市町村が所有者に代わって空き家を強制的に解体・撤去する制度です。根拠となるのは「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称:空家法)で、2015年5月に完全施行されました。

空家法にもとづく制度

空家法第14条では、市町村長が特定空家等の所有者に対して段階的な措置をとれることが定められています。所有者が措置を履行しない・履行が不十分・期限までに完了する見込みがない場合、市町村は行政代執行法の定めるところにより、所有者に代わって除却などの措置を実施できます(空家法14条9項)。

対象になるのは「特定空家等」に指定された空き家

行政代執行の対象になるのは、市町村から「特定空家等」に指定された空き家です。管理不全の状態がすべて対象になるわけではなく、指定には明確な基準があります(基準は次章で解説)。特定空家に指定される前段階の「管理不全空家」については、管理不全空家とは?基準、固定資産税、特定空き家との違いを解説で詳しく解説しています。

略式代執行との違い(所有者不明の場合)

所有者が特定できない・連絡が取れない空き家については、「略式代執行」という別の仕組みがあります。通常の行政代執行は助言・指導→勧告→命令という段階を経てから実施されますが、略式代執行は所有者を確知できない場合に、勧告・命令の手続きを経ずに市町村が直接措置を実施できる制度です(空家法14条10項)。相続人全員が相続放棄した空き家や、所有者の所在が長年不明になっている空き家などが対象になり得ます。

空き家の行政代執行までの5段階フロー|茨城の解体Do!

特定空家等に指定される基準

国土交通省・総務省の「特定空家等に対する措置」に関する基本指針では、特定空家等に該当するかどうかの判断要素として、主に次の4つの状態が示されています。

①倒壊など保安上危険となるおそれがある状態

建物の傾き、基礎や柱の破損、屋根材の剥落などにより、倒壊や部材の落下によって周辺に危害を及ぼすおそれがある状態です。

②衛生上有害となるおそれがある状態

浄化槽の破損による汚水の流出、ごみの放置による臭気や害虫の発生など、周辺の衛生環境に悪影響を及ぼす状態です。

③適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態

外壁の落書きや汚損、樹木・雑草の著しい繁茂などにより、周辺の景観を著しく損なっている状態です。

④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

不特定の者の侵入を許す状態、動物の棲みつきによる臭気・鳴き声などの生活環境への悪影響を含みます。これらの基準に複数該当し、かつ改善の見込みがないと市町村が判断した場合に、特定空家等として指定されます。

行政代執行までの5段階の流れ

特定空家に指定されてから実際に行政代執行が実施されるまでには、複数の段階を踏みます。所有者にはそれぞれの段階で改善のチャンスが与えられており、いきなり強制解体になるわけではありません。

ステップ1:助言・指導(空家法14条1項)

市町村長は特定空家等の所有者等に対し、除却・修繕・立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全のために必要な措置をとるよう助言・指導することができます。この段階で改善すれば、それ以上の措置には進みません。

ステップ2:勧告(空家法14条2項)

助言・指導をしても状態が改善されない場合、市町村長は「勧告」を行います。勧告を受けると、固定資産税・都市計画税の住宅用地特例(更地に比べて税額が軽減される特例)の対象から除外され、翌年度から税負担が実質的に増加します。この固定資産税の仕組みについては更地にすると固定資産税が6倍に?税制ルールと5つの対策でも解説しています。

ステップ3:命令(空家法14条3項)

勧告に従わない場合、市町村長はさらに強い措置として「命令」を行います。命令には法的な拘束力があり、正当な理由なく命令に違反すると50万円以下の過料に処される可能性があります(空家法16条1項)。

ステップ4:戒告・代執行令書の通知(行政代執行法3条)

命令に従わない場合、行政代執行の実施前に「戒告」(履行期限を明示した文書での通知、行政代執行法3条1項)が行われます。それでも履行されない場合、代執行の実施時期・執行責任者・費用の見積額を記載した「代執行令書」が通知されます(同法3条2項)。

ステップ5:行政代執行の実施と費用納付命令

代執行令書で示された時期になると、市町村が指定した業者によって解体・撤去が実施されます。所有者が業者を選ぶことはできません。代執行にかかった費用は、後日「納付命令」により所有者へ請求されます。

自主解体と行政代執行の費用比較|茨城の解体Do!

行政代執行の費用は誰が払う?

費用は原則所有者に全額請求される

行政代執行にかかった解体費用・処分費用は、所有者に全額請求されます。行政が費用の一部を負担してくれるわけではありません。

支払えない場合は財産が差し押さえられる

代執行の費用は、行政代執行法にもとづき国税滞納処分の例により徴収されます。これは税金の滞納と同じ扱いで、期限までに納付されない場合、現金・預貯金・給与・不動産などの財産が差し押さえられることがあります。

自己破産をしても費用徴収からは逃れられない

代執行費用は強制徴収が認められているため、自己破産による免責の対象にはなりません。所有者が個人再生や破産手続きをとっても、代執行費用の支払い義務は原則として残ります。

行政代執行が実施された事例

行政代執行がどの程度の費用規模になるか、国土交通省の資料や自治体の公表事例からいくつか紹介します。いずれも茨城県外の事例で、茨城県内の行政代執行事例は今回の一次情報の範囲では確認できませんでした。

千葉県柏市の事例

国土交通省の資料によると、千葉県柏市で老朽化による倒壊のおそれがあった木造・鉄筋コンクリート造の混構造建物(延床面積約633.1平方メートル)について行政代執行が実施され、工事費用約1,040万円が財産の差押えによって回収された事例が報告されています。

広島県の事例(2022年1月)

広島市が公表した資料によると、木造2階建て(床面積47平方メートル、昭和39年建築)の空き家について、所有者が命令に従わなかったため行政代執行が実施され、解体費用約520万円が所有者から徴収されました。

兵庫県姫路市の事例(2021年12月)

姫路市が公表した資料によると、二度の火災で危険な状態になった木造瓦葺2階建て(延床面積105平方メートル)について、所有者が自ら部分的に解体したものの不十分だったため行政代執行が実施され、費用は所有者からの徴収・差し押さえによって回収されています。

抵当権・相続放棄と行政代執行の関係

抵当権がついていても代執行の対象になる

住宅ローンの担保として抵当権が設定されている空き家であっても、行政代執行の対象から外れるわけではありません。ただし、代執行が金融機関の担保価値に影響するため、戒告の段階などで抵当権者への通知が行われることがあります。もっとも、行政代執行の対象になるほど老朽化が進んだ建物で、住宅ローンが残っているケースは実務上少ないとされています。

相続放棄をしても他の相続人間では管理責任が残る

空き家の相続を放棄した場合でも、管理責任が完全になくなるわけではありません。民法上、相続放棄した空き家について第三者から修繕・解体を求められても応じる義務はありませんが、他の相続人との間では管理責任が生じ得ます。管理責任を完全に手放すには、家庭裁判所での相続財産清算人の選任など、別途の手続きが必要です。

行政代執行を避けるためにできること

指摘された箇所を自分で修繕・改善する

助言・指導や勧告の段階で指摘された箇所(雑草の除去、破損部分の修繕など)を自分で改善すれば、特定空家等の指定が解除される可能性があります。

期限までに自主的に解体する

命令や戒告の段階であっても、期限までに自主的に解体すれば行政代執行を回避できます。自主的に解体する場合は業者を自分で選び、複数の見積りを比較できるため、行政代執行に比べて費用を抑えやすいという利点があります。市町村によっては老朽危険空き家の解体に対する補助金制度を設けている場合もあるため、お住まいの市町村の制度をあわせて確認することをおすすめします。

解体前に空き家のまま売却する

特定空家に指定される前、あるいは指定された段階であっても、空き家のまま買主を探す方法があります。老朽化が進んだ空き家でも、買取専門の業者であれば取り扱えるケースがあります。

解体してから更地で売却する

更地にすると固定資産税の住宅用地特例が外れ、税負担が増える点には注意が必要です。詳しくは更地にすると固定資産税が6倍に?税制ルールと5つの対策をご確認ください。

茨城県内で老朽危険空き家を放置しないために

解体Do!は茨城県内の解体工事に幅広く対応しています。特定空家に指定されそうな空き家、すでに勧告・命令を受けている空き家についても、早めに解体・処分の相談をいただくことで、行政代執行に至る前に費用面で有利な選択肢を検討できます。管理不全空家の段階での対処法については管理不全空家は放置厳禁|指定の条件・対処法と補助金の活用術もあわせてご覧ください。空き家そのものの定義や基本的な考え方は空き家とは何?―茨城の解体工事 カイタイDo!で解説しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 行政代執行はどのくらいの期間で行われますか?

A. 助言・指導から行政代執行に至るまでの期間は事案によって大きく異なります。各段階で所有者に改善の機会が設けられるため、数か月から数年単位で進むケースもあれば、所有者が対応をしないまま放置されて期間が延びるケースもあります。一律の目安を示す公的な統計は確認できていません。

Q2. 特定空家に指定されたら空き家は売れませんか?

A. 特定空家に指定された後でも売却は可能です。老朽化した空き家を専門に扱う買取業者であれば、指定を受けた状態のままでも相談できます。ただし、指定が解除されるまでは固定資産税の負担が重い状態が続きます。

Q3. 命令を無視するとどうなりますか?

A. 正当な理由なく命令に違反すると、50万円以下の過料に処される可能性があります(空家法16条1項)。さらに命令の内容が履行されない状態が続けば、行政代執行に進むことになります。

Q4. 略式代執行と行政代執行は何が違いますか?

A. 通常の行政代執行は助言・指導→勧告→命令という段階を経てから実施されますが、略式代執行は所有者を確知できない場合に、これらの段階を経ずに市町村が直接措置を実施できる制度です(空家法14条10項)。

Q5. 行政代執行の費用が払えない場合はどうなりますか?

A. 代執行費用は国税滞納処分の例により強制徴収されるため、現金・預貯金・給与・不動産などの財産が差し押さえられる可能性があります。自己破産をしても費用の支払い義務が免除されるわけではありません。

Q6. 特定空家に指定されても解除されることはありますか?

A. 指摘された状態(倒壊のおそれ、衛生上の問題など)が改善されれば、特定空家等の指定が解除される可能性があります。雑草の除去や破損箇所の修繕など、できる範囲から着手することが重要です。

まとめ

行政代執行は、特定空家に指定された空き家の所有者が助言・指導、勧告、命令という段階を経ても状態を改善しない場合の最終手段です。行政代執行に至ると、費用は所有者に全額請求され、支払えなければ財産の差し押さえに至ることもあります。一方で、各段階には改善の機会が用意されており、早い段階で修繕・解体・売却などの対応をとることで、行政代執行に至る前に負担を抑えることができます。空き家の解体でお困りの際は、茨城県内で幅広く対応している解体Do!までお気軽にご相談ください。

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