茨城県の東部、鹿島灘に面したこのまちを車で走ると、見渡す限りのメロン畑とビニールハウス、そして時折現れる百里基地の滑走路が印象に残る。鉾田市は「日本一の農業産出額」を誇る一方、海沿いの別荘地には長く人の出入りが途絶えた住宅が目立つ。市が実施した実態調査によると、その数は市内だけで2,847件。この記事では、鉾田市が公表している一次データをもとに、空き家がどこにどれだけあり、なぜ生まれ、市がどう対応しようとしているのかを整理する。
鉾田市はどんなまち?
2005年、3町村が合併して生まれた「菜果王国」
鉾田市は平成17年(2005年)10月11日、鹿島郡の鉾田町・旭村・大洋村が新設合併して誕生した。市域は207.60平方キロメートル(旧鉾田町109.19平方キロメートル、旧旭村53.65平方キロメートル、旧大洋村44.76平方キロメートル)と茨城県内でも広く、鹿島灘沿いの海岸部から内陸の畑作地帯まで幅広い地形を抱える。合併から20年が経ったいまも、行政区分としては旧町村の名残である「鉾田地区」「旭地区」「大洋地区」という3地区の呼び方が生活のなかに根付いている。この3地区の違いが、実は空き家の分布を理解するうえでも重要な手がかりになる。
いまの人口と世帯(令和8年4月現在)
茨城県統計課の常住人口調査によると、鉾田市の常住人口は43,357人、世帯数は19,510世帯(令和8年4月1日現在)。国勢調査の推移を見ると、平成17年(2005年)の51,054人をピークに人口は減少に転じており、令和2年国勢調査では45,953人まで落ち込んでいる。年齢別の人口割合(令和7年10月1日現在)は15歳未満が8.9%、15〜64歳が55.8%、65歳以上が35.3%。3人に1人以上が高齢者という構成は、空き家の発生と無関係ではない。
数字で見る鉾田市の空き家
空家総数2,847件、現地調査5,173件の内訳
鉾田市が令和5年度に改定した「鉾田市空家等対策計画」によると、令和4年度に実施した現地調査5,173件のうち、空家等と判定されたのは2,847件だった。平成29年度の前回調査(現地調査3,502件、空家総数2,801件)と比べると、調査対象自体が拡大したこともあり、件数はわずかに増加している。
8割超が集中する「大洋地区」という事実
この記事で最も注目したいのが地区別の内訳だ。空家総数2,847件のうち、鉾田地区が395件、旭地区が140件であるのに対し、大洋地区は2,312件と全体の81.2%を占めている。鉾田市自身も計画のなかで「大洋地区の別荘地において多くの空家等の発生がみられる」と明記しており、この傾向は前回調査から大きく変わっていないという。つまり鉾田市の空き家問題は、市内全域に均等に広がっているのではなく、鹿島灘沿いの別荘地エリアに強く偏った構造を持っている。
管理状況で見ると「不全」が半数を超える
調査では空家等を「適正」「不全」「危険」の3段階で評価している。全地区合計では適正が1,256件(44.1%)、不全が1,561件(54.8%)、危険が30件(1.1%)。半数以上が「不全」、つまり管理が行き届いていない状態にあることが分かる。地区別に見ると、鉾田地区は適正41.0%・不全57.5%、旭地区は適正42.9%・不全55.0%、大洋地区は適正44.7%・不全54.4%と、いずれの地区も似た傾向を示している。危険度の高い空き家が突出して多いわけではないが、半数超が「不全」ゾーンにあるという事実は、放置すればいずれ危険度が上がっていく予備軍が多いことを意味する。
なぜ大洋地区に空き家が集まるのか
別荘地としての開発の歴史
大洋地区は鹿島灘に面したリゾート開発の歴史を持つエリアで、昭和期に別荘分譲地として売り出された住宅地が点在する。鉾田市の対策計画でも「別荘地」を独立したカテゴリーとして扱っており、適法に建築された別荘地の空き家については「利活用に取り組む」、それ以外については「発生抑制、把握とともに所有者による除却を促進する」という方針が示されている。週末や夏場だけ使われていた別荘が、所有者の高齢化や世代交代を機にそのまま使われなくなり、空き家化するケースが多いとみられる。
市街地・集落部とは異なる対応の考え方
鉾田市の対策計画では、行政区域・用途地域・誘導区域では発生抑制・除却・利活用のすべてを積極的に推進する一方、別荘地エリアについては「発生抑制・除却を中心に取り組む」という、市街地とは異なるメリハリのある方針が定められている。これは、限られた予算と人員を、緊急性や地域特性に応じて配分する考え方に基づくものだ。
鉾田市の空き家対策:解体補助と空家バンク
空家等解体補助金は年5件・最大50万円
鉾田市は令和5年度から「鉾田市空家等解体補助金」制度を設けている。対象は「特定空家等」または「不良住宅」の判定を受けた空き家で、解体費用の2分の1(最大50万円)を補助する仕組みだ。年間の募集件数は5件と少なく、令和8年度分はすでに募集件数に達し、以降はキャンセル待ちでの案内となっている。対策計画に掲げる目標指標でも「解体費補助金制度を活用した解体件数 目標3件/年」とされており、市としても限られた予算のなかで優先度の高い危険な空き家から対応していく姿勢がうかがえる。補助金の詳細な条件や申請の流れは、当サイトの鉾田市の解体補助金は最大50万円|条件と申請の順番【2026】で解説している。
空家バンクで「壊す」より「活かす」選択肢も
鉾田市は空家バンク制度も運用しており、公益社団法人茨城県宅地建物取引業協会の協力のもと、使われていない空き家を住居として活用したい人とのマッチングを進めている。空家バンクを通じて契約が成立した場合、修繕費の一部を補助する「修繕補助金」(売買契約のみ、最大50万円)と、5年以上居住した世帯への「居住助成金」(一律10万円)が交付される。対策計画の目標指標では「空家バンクの成約件数 現状値2件/年→目標5件/年」と定められており、解体だけでなく利活用にも力を入れていることが分かる。
まちの風景も変わってきた
メロン・さつまいも日本一の農業のまち
鉾田市は農林水産省の統計で「野菜産出額」全国1位、メロン・さつまいも(かんしょ)の産出額も全国1位という、日本有数の農業のまちだ。温暖な気候と鹿島灘からの潮風、水はけのよい大地がメロン栽培に適しているとされ、市内には観光農園やメロン狩り体験施設も多い。この農業基盤の強さは、市の産業別就業人口割合(令和2年)にも表れている。第1次産業(農業など)が29.99%と、県内でも突出して高い水準だ。
百里基地と鹿島灘、二つの顔
鉾田市の西部には航空自衛隊百里基地(茨城空港)が隣接し、東部は鹿島灘に面した海岸線が続く。農業地帯・別荘地・基地周辺という異なる性格のエリアが同居しているのが鉾田市の特徴で、空き家問題を考えるうえでも「どのエリアの、どんな種類の空き家か」を区別して見る必要がある。
相続と登記、これからの前提
2024年の相続登記義務化と鉾田市の対応
令和6年4月1日から相続登記が義務化され、正当な理由なく申請を怠ると過料の対象になる可能性がある。鉾田市の空家等対策計画でも「相続登記が義務化などについての啓発を強化する」と明記されており、所有者不明化を未然に防ぐ取り組みが計画に組み込まれている。大洋地区の別荘地のように所有者が市外・県外に住んでいるケースが多いエリアでは、相続の発生に気づかないまま何年も放置される空き家が生まれやすい。登記や相続の手続きを後回しにすることが、結果的に「不全」ゾーンの空き家を増やす一因になっている可能性がある。
空き家をどう選ぶか、判断の材料
解体一択ではない、鉾田市ならではの事情
鉾田市の場合、解体補助金は年5件という狭き門である一方、空家バンクという受け皿も用意されている。特に大洋地区の別荘地は、立地条件によっては別荘需要や移住希望者からのニーズが見込める場合もある。「使い道がないから解体」と決める前に、空家バンクへの登録や不動産としての流通可能性を検討する価値はある。一方で、老朽化が進み危険度が高い、あるいは相続人が複数いて管理の見通しが立たないといった場合は、早めに解体を選択したほうが将来的な負担を抑えられることも多い。
坪単価や費用感を先に知っておく
解体を選択肢として検討する場合、まず気になるのが費用感だろう。鉾田市内の解体費用の相場や坪単価の目安、費用を抑える方法については、当サイトの鉾田市 解体費用|相場と坪単価、賢く抑える5つの方法【2026年】で詳しく解説している。あわせて確認しておくと判断がしやすくなる。
近隣市の空き家事情と比べてみる
茨城県内の他の市町村でも、同じように空き家の実態調査や対策計画の策定が進んでいる。人口動態や地区ごとの偏りは自治体ごとに異なり、比較すると鉾田市の「別荘地への集中」という特徴がより際立って見える。近隣のかすみがうら市の空き家の現状とまちの変化【2026年】もあわせて参考にしてほしい。
まとめ
鉾田市の空家等は2,847件(令和4年度調査)、そのうち81.2%にあたる2,312件が大洋地区に集中している。市街地や集落部と異なり、別荘地というエリア特性が空き家問題の背景にあることが、鉾田市の大きな特徴だ。市は解体補助金(年5件・最大50万円)と空家バンクの両輪で対策を進めているが、解体補助金の枠は小さく、令和8年度分もすでに埋まっている。空き家をどうするか迷ったときは、立地や状態を踏まえたうえで、解体と利活用のどちらが現実的かを早めに見極めることが大切だ。
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よくある質問
Q1. 鉾田市に空き家はどれくらいありますか?
A. 鉾田市が令和4年度に実施した空家等実態調査によると、現地調査5,173件のうち2,847件が空家等と判定されました。平成29年度調査(現地調査3,502件、空家総数2,801件)と比べると、調査対象の拡大もあり件数はやや増加しています。
Q2. 鉾田市で空き家が特に多いのはどのエリアですか?
A. 大洋地区が2,312件と、市全体の81.2%を占めています。鉾田地区は395件、旭地区は140件です。大洋地区は鹿島灘沿いの別荘地としての開発の歴史があり、所有者の高齢化や世代交代を機に空き家化するケースが多いとみられます。
Q3. 鉾田市に空き家の解体費用を補助する制度はありますか?
A. あります。「鉾田市空家等解体補助金」は、特定空家等または不良住宅の判定を受けた空き家について、解体費用の2分の1(最大50万円)を補助する制度です。ただし年間の募集件数は5件と少なく、令和8年度分は既に募集件数に達し、以降はキャンセル待ちの案内となっています。詳しい条件は当サイトの解体補助金の記事で確認できます。
Q4. 鉾田市の空家バンクとはどんな制度ですか?
A. 茨城県宅地建物取引業協会の協力のもと、使われていない空き家を住居として活用したい人とマッチングする制度です。契約成立時には修繕費補助(売買契約のみ、最大50万円)や、5年以上居住した世帯への居住助成金(一律10万円)が交付されます。
Q5. 空き家の管理状況「不全」とはどのような状態ですか?
A. 鉾田市の実態調査では、空家等を目視で「適正」「不全」「危険」の3段階に区分しています。「不全」は管理が行き届いていない状態を指し、市全体では1,561件(54.8%)が該当します。放置が続くと将来的に「危険」区分へ移行する可能性があります。
Q6. 空き家を解体するか活用するか、どう判断すればよいですか?
A. 立地条件や建物の状態によって最適な選択は異なります。別荘需要や移住希望者からのニーズが見込めるエリアであれば空家バンクへの登録も選択肢になりますが、老朽化が進んでいる、相続人が複数いて管理の見通しが立たないといった場合は、早めに解体を検討したほうが将来的な負担を抑えられることが多いです。まずは無料相談で状況を整理することをおすすめします。
鉾田市で古い家が多いエリアの傾向や、建て替えを検討する際に確認しておきたいポイントについては、鉾田市の古い家が多いエリアと建て替え事情の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
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